鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

*

杣人伝 その37

   

 隠れ里の長老は、ツルギと丸山の意思をそれぞれ確認した後、みずきには秘伝の眠り薬をお茶に混ぜて眠らせ、配下の者に、御陵の前の広場まで運ばせた。
 丸山は、みずきのポケットに、これまでの協力のお礼と、自分の覚悟、そしてみずきの将来の幸せを祈ると言う内容の手紙を入れておいた。
 長老は、藤代と牛島が、やがて到着することが分かっており、それに合わせて御陵の前に立たせたのだった。

 丸山は、みずきが去った後、ツルギとの契りに合わせて、村のしきたりに沿った儀式に入った。
 その日から、代々伝わる白い巫女の衣装を纏い、毎朝、集落の中に祀られた始祖宮と、龍神池に建つ龍神宮に祈りを捧げ、日中は、村に伝わる古文書の整理や解読を行い、更に巫女として行うべき、奉納舞の伝授を受け、夜は龍神池で身を清めた後、森の奥深くにある臥竜岩と呼ばれる岩の上で座禅を組み、その大岩の下の洞に建てられた天神宮に入って朝を迎える。
 天神宮の中は、四方に大きめの蝋燭が灯されるだけだが、風が遮られているので、意外と寒さを感じなかった。
 初日は、巫女付きと呼ばれる老女と2人だったが、翌日からは、森に入る時から、丸山1人となり、冬の高地は冷え冷えとして、風の音と、夜に無く鳥の声がするだけの時間を過ごした。

 最後の2日間は、食物も摂らず、龍神池から汲み取った水だけを持って天神宮に籠り、村人との接触も断絶させられた。
 その2日目の夜、丸山は天から龍のような雲が降りてきて、その白いものと一体になった夢をみてうなされた。
 最後の日の朝に、森の中から現れた丸山は、村人が見た2日前の丸山とは、別人のような容姿になっていた。
 着ているものこそ変わらないが、元々モデル並みの容姿で人目を集めていたその顔は、妖艶な顔つきとなり、人を寄せ付けない気高さを身に着けたように見えた。
 ただ、2人の少女が駆け寄ると、以前の優して顔に戻って抱き寄せた。

 一方、ツルギは、1週間の間、龍神池の奥にある竜門滝の、その奥にある洞窟に籠った。
1日に一食だけの差し入れがなされ、後は独りでずっと洞の中で過ごす。ツルギはこの洞に今まで入ったことはないと思っていたが、長老から自分がここで生まれたと聞かされたことを思い出した。
 この洞窟も、丸山が籠った天神宮も、ツルギの父母や、その先代というように、代々の皇家の者以外の者が、中を見ることはなく、ツルギが1週間をどう過ごすのかも知りえない。
 
 契りの日は、女たちの手で、丸山が洗い清められ、独特の化粧や衣装で飾られ、村人皆が踊り祝った。
 丸山の透き通るような白い肌を洗い清めた女たちは、丸山の背中に、微かに龍の姿に似た赤みの図柄が浮き出ているのを見た。
 そして、母親たちから聞かされていた、ツルギの母親である巫女の背中には、龍が乗っていたという話は、このことではないかと思った。

つづく
 

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