鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

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杣人伝 その36

      2018/02/15

 五條家は、元々京にあって、五條頼元は後醍醐天皇の有力なブレーンとして仕えていたが、南北朝の戦い以前に、後醍醐天皇の孫の懐良親王の後見役として九州に下っていた。
 後の北朝との戦いで、まだ若き良成親王が戦に敗退して頼ったのが頼元で、その現存する末裔は当時の天皇家の金鵜の御旗を保存しているという、地元では由緒ある家柄で知られていた。
 居宅は、年に一度、五條家で開催される、伝承品の見学会に、牛島も参加したことがあり、すぐに分かったが、当主は家を空けているという事で、その妻に訊ねてみたが、何も手掛かりは得られなかった。

 ここまで追ってきて、このままでは帰れないと思い、もう一度御陵まで戻ってみようということで、戻ったのが既に午後5時近くなっており、周りが山に囲まれているため、少し薄暗くなり始めていた。
 そこで、2人は1人の少女に出会った。
藤代は、すぐにその少女がみずきであることが分かった。
 彼女の写真を入手していたこともあるが、常緑樹の緑の森を背景に独り立つ姿は、際立った美しさだった。
「みずきちゃんだよね。後の2人はどこにいるの」藤代が車を降りるなり、走り寄って聞いた。
「すみません。一緒に居たはずなのに、いつの間にか私だけここに居て」
みずきは、まるで寝起きのような口調で応えた。
「とにかく、ここに居れば、東京から来た人が来るから、安心して待っていなさいと言われて」
「誰に」藤代はそう訊ねながら、周りを見渡すが誰もいない。
「私を村から連れて来た人なんだけど、今まで居たんですが」
そう言って、みずきも周りを見渡して「何か、眠っていたみたいで、今でも夢みたいで」
 どうやら、みずきは眠り薬のようなものを飲まされて、ここまで連れてこられたようだ。
「で、みずきちゃんは、何処に居たの」
「そのお墓の奥だったような気がするんですが」
 藤代と牛島は、再度周りを見渡して、誰も居ないことを確認すると、御陵の柵を乗り越えて、その奥まった岩の方まで進んだが、大きな岩が立ちはだかっており、それ以上進めない。
 周辺に入り口か何かあるのかと探してみたが、何も見当たらない。
そうする内に、いよいよ辺りが暗くなって冷え込んでもきたので、とにかく、今日は一旦市内に戻ることにした。
 ホテルに戻り、部屋を1つ追加して、みずきを少し休ませた後、食事をとりながら話を聞こうという事になった。

第十一章  龍の洞

 みずきは落ち着きを取り戻し、確かに丸山と関矢司郎と一緒に八女まで来たこと。そして山の中に集落があり、関矢はそこの出身で、2人ともその集落に残ることになったことを話してくれた。
みずきは、敢えて、丸山と司郎の関係や、老人から聞いたことについては話さなかった。
 藤代は、みずきの後のことを考えて、みずきの家には電話せず、妻の藤子に、みずきを迎えに来てくれるよう頼んだ。
 思ったより、滞在が長くなりそうなので、ついでに着替えを持ってきてくれるように頼むつもりだった。
 みずきは、冬休み中で、友達と早めの卒業旅行ということになっており、予定の明日までに帰ればいいことなので、敢えて問題を大きくする必要はないとの、藤代なりの気遣いだった。
 藤代と牛島は、あの矢部の山中に隠れた集落があるという、みずきの言葉が嘘とは思えず、本社の山田に電話して、社のヘリを回すよう手配させた。

つづく

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