鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

*

杣人伝 その35

      2018/02/07

 老人のその後の話はこうだった。
もしも、丸山が承諾するならば、ここに残り、ツルギと一緒になって子孫を残してほしいというのが一族の望みであること。
 そうであれば、仕来りに従い、今よりこの集落で寝起きし、女たちに、一族の女の掟や習わしを習いながら、一緒になるまでの務めを行いながら明日からの6日間を村で過ごした後、正月1日から3日間をまでは、一人で天神宮という場所で身を清め、更に1月4日からの3日間をツルギと共に、竜神洞で過ごした後、7日目に、村人の前で夫婦の契りを結ぶのだと言うことだった。
 その間、村の者は全て食を断ち、7日分の食物を竜神に捧げ、松明を炊いて竜神を迎え、身ごもった子は、2人の能力に合わせ、竜神の力を授かるというものだった。

 老人は、その、竜神の言い伝えについて話してくれた。
「元々、この谷の洞窟には、竜神池、今はせき止められて日向神ダムとなり、ダムと同化してしまいましたが、その竜神池と竜神洞を住処として、つがいの竜が住んでおり、戦で敗れた後、この地に逃れた親王が、身ごもって衰弱していた母竜に、家臣や村人を守ることを条件に身を捧げられました。
 それ以来、竜はこの村の守り神となり、生まれた竜の子は、丁度その時に身ごもっていた親王の妃に乗り移り、生まれ来る子は、代々特別な力を授かるようになったと伝えられております」

 今日は12月25日、あと1週間後に始まる儀式を受けるかどうか、明日の明け方までには答えを出してほしいと言う。
 丸山の隣に座って聞いていたみずきは、このような突飛な話を、丸山が聞き入れるはずはないと思っていた。
 ところが、みずきの思いに反して、丸山は老人の言葉に間を置かず口を開いた。

「わかりました。私の方が関矢君、いや、ツルギ君より6歳も年上ですが、彼に異存が無ければ、そして、それが私たちの運命と言うのであれば、それに従います」
「先生、本当にここに残るんですか、こんなところ・・・」そう言いかけて、「こんなところ」と言ってしまったのが老人に悪いと思ったのか「本当にいいん・・・ですか」と重ねて言った。
「みずきちゃん、私も、関矢君をあの大会に身代わり出場させると決めた時から、学校には戻れないと覚悟していたの。それに、関矢君の事だけでなく、自分のことも知ることが出来たし、ここが本来、私の居るべき場所だという感じるの。
 それにね、私は小さい時に両親を事故で亡くして、天涯孤独だと思っていたの。それが育ててくれた滋賀のお祖父さんも、このことを承知していたというのなら、それでいいと思うの」
 みずきは、今までの緊張と心細さに、今にも泣きだしそうな顔をしている。

「それにね、関矢君のように、これから、もしかしたら普通の社会に出ていくことが出来るようになるかもしれないわ。みずきちゃんは、冬休みがあと少しで終わるから、ちゃんと始業式に間に合うように帰りなさい。ご両親を心配させる訳にはいかないから」
 老人が2人のやり取りを聞いて言った。
「この娘さんの事は心配ありません。ちゃんと配下の者が、安全な所まで送り届けます」
藤代と牛島が、後征西将軍の御陵の前に着いたの、丸山一行から1日遅れの、午後1時を少し回った頃だった。
 御陵の周りを暫く探してみたが、誰も見当たらない。
辺りには、民家も無いので、牛島の提案で、元々は御陵の主の家臣筋の子孫と言われ、この御陵と関係が深いと言われる、この村の五條さんという家を訪ねることにした。

つづく

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