鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

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 杣人伝 その25

   

 藤代は、福岡県の最南端、熊本県との県境にある八女市の、古びた街並みの繁華街にあるビジネスホテルにチェックインした。
 このホテルのある一帯が市の中心街だと聞いてきたのだが、思った以上に閑散としている。
八女市と言えば、八女茶という高級茶の産地ということは知ってはいたが、訪れるのは初めてで福岡県自体が、以前に野球の取材で、博多と天神には来たことがあるものの、それ以外の土地に足を運んだことは無かった。

 スポーツ記者の立場から言えば、福岡県の南部地区は、夏の甲子園で優勝した大牟田の三池工業や八女の西日本短大付属、久留米の久留米商業。それにプロの輩出校として有名な柳川商業など、突出して野球の強い地域だという知識はあった。
 また、この地域は、県道の玉竜旗大会や柔道の金鷲旗大会といった柔剣道の強豪校も多い。
九州男児と言うが、この地域の人は、何かそういう闘う血統を受け継いでいるのだろうか。
 
 カウンターの上に、地元を紹介した三つ折りのパンフレットが置いてあり、チャックインした後、部屋に置かれた小さなソファーに寛ぎながら、ざっと目を通してみた。
 やはり、八女の広大な茶園の紹介や、古墳群、江戸時代から残る白壁通りなどが写真入りでお洒落に紹介してあり、そんな中に天皇家の陵墓があることが藤代の目を引いた。
 天皇家と言えば、明治以前は京都、明治になってから移られた東京しか思い浮かばない。
それが、なぜ、こんなに遠く離れた九州の奥地に、それもちゃんと宮内庁が認めて管理しているというのだから、日本のあちこちにある伝説物とは違うようだ。

 藤代は、国立競技場の事件の後、品川高校の陸上部の顧問で、当日、競技場にいたことがわかっている丸山を追ったが、都内では所在が分からず、手を尽くした結果、男女二人の生徒を連れて、福岡県の八女市と言う地方都市にに向かったというところまで突き止めていた。
 各マスコミは、品川高校の関矢校長や朝倉教頭に、その生徒について執拗に回答を迫ったが、「私どもは全く分からない、当校に本当にそんな生徒がいたら有難い。在籍する生徒を全員当たってもらってもいいですよ」の一点張りで、その当日の責任者である教師の丸山先生は、冬休みに入っており、都大会が終わったら、暫く旅行に出かけるというので許可したが、行先までは聞いていないということだった。

 田川と長谷川と言う、本来競技に出るはずだった二人の生徒に、学校からの伝達を伝えたという「みずき」という女生徒については、事件の後に、本人が記者の質問に「二人が出場するので応援に行っていたら、引率で来ていた丸山先生が二人を探しておられ、二人を探して、問題が起きたみたいだから、至急学校に戻るように伝えて欲しいと頼まれて、二人を見つけて伝えました」と答え、二人の話とも合致していた。
「それで、貴女もその少年の競技を見たんですか」続けて記者が訪ねる。
「それは、何度も聞かれたんですけど、私も二人が間に合うか気が気じゃなかったので、ヤリ投げが始まる午後一時少し前から、競技場の入り口のところで、二人が戻ってくるのを待っていたんです。それで、ようやく二時を回って帰って来たので、急いで一緒にグランドに出たらあんなことになっていて、そして、二人が皆さんに囲まれてしまったので、暫く待っていましたが、仕方なく帰りました」

 藤代は、この女子高生が何か知っているような気がして、その後、自宅を訪ねたが、「冬休みに入ったので、少し早いけど、友達と卒業旅行を兼ねて、九州に二泊三日の旅行に行くと言って今朝早くに出ました」と母親の美津子が話してくれた。
 新聞記者が来たことで、美津子も「今度の陸上の都大会、何か不思議な事があったそうですね。それも品川高校の生徒さんが関係していると言っていたけど、その件と何か娘も関係があるんですか」不安そうに尋ねた。
「いや、当日、娘さんも応援に行かれていたと言うんで、その時の様子を聞きたいと思ったものですから」
 藤代は直感的に思った。
いずみは、今回の替え玉事件の協力者で、丸山は、その少年といずみを連れて九州に向かったのに違いない。

つづく
 

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