鶴の一声

靏繁樹が日々考えたことや思いついたことを徒然とかきます

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517 加藤剛・加藤嘉

   

 この二人の名前を見て、分かる人は映画通。
日本映画で、私が最高傑作だと思っている、松本清張の「砂の器」の映画で主役を務めた二人が、たまたま同じ加藤姓だった。
 本当は、この中の殺人事件を捜査する刑事役の丹波哲郎が主役なのだろうが、私はこの二人が主役だと思っている。

 加藤嘉さんは、加藤剛さんの父親役で、ハンセン氏病にかかり、妻に去られ、村も追われて極貧で乞食のような暮らしをしながら極寒の北日本の村々を渡り歩く姿が、演技を越えていた。その時の子役も素晴らしかった。
 二人は島根まで来たところで、親切な巡査に保護され、父親は施設に入れられ、子供は、その巡査が引き取るつもりだったが、父親が恋しく逃げ出して行くえ不明になる。
 その後20年ほどの時を経て、その子が有名なピアニストになっており、華麗な社交界のフィアンセもおり、結婚も近い。

 その元巡査が殺害され、捜査の末に、そのピアニストが犯人と分かるまでの、その過程で隠された、子供時代の涙が出るような父子の生活が映し出される。
 ストーリーは、現在と過去を交差しながら、元巡査が、ピアノコンサートの広告か何かで、その有名なピアニストが、20年前、我が家から逃げ出して、行方不明になった少年ではないかと思い、東京まで会いにいくが、成功と結婚を前に、父親と極貧の過去を知られたくないピアニストが巡査と他にも過去を知る人を殺害する。操作の末、犯人であることを突き止めた刑事、丹波哲郎と若き日の森田健作が、ピアノ演奏会場に逮捕に向かうというもの。

 この映画の素晴らしさは、もちろん主役二人の演技力と、丹波や森田、巡査薬の緒形拳や子役など脇を固める配役も素晴らしかったが、背景に流れる音楽と、二人の、貧困の旅の中で映し出される四季の風景が、実に感動的に描き出されており、何十年も前に観た映画だが、今も記憶に残る。

 加藤嘉は、もう早くに亡くなったが、今日の記事に加藤剛さんが亡くなったと載っていた。
剛さんは、私の好きな数少ない日本の俳優で、兵隊の厳しい生活をドラマにした「人間の条件」は衝撃を受けた。とにかく真面目な人間の役が多かったが、実物も真面目だったらしい。当時は人気のあった時代劇でも「大岡越前」は、はまり役だった。
 二人とも、確か演劇からのスタートで、やはり基礎勉強が、その演技力を支えたのだろう。
今は残念ながら、中身や演技力で勝負する、こんな重厚な日本映画は見当たらない。

 加藤嘉さんは、農家のおじいさん、時代劇の居酒屋の爺さん、軍の将校、家老職など何をやらせても本物のような演技力があった。
 演技力と言えば、勝新太郎・丹波哲郎・菅原文太・金子信夫・佐分利信・渥美清・三国廉太郎・田中邦衛・仲代達矢・三船敏郎・高倉健・・・・
 渋いところでは、有島一郎・宇野重吉・木村功・志村喬・成田三樹夫・佐藤慶・島田省吾・宮口精二・金子信夫・・・・今は亡き日本映画の名優たち。
 そういう名優が、また1人消えた。

 - 社会, 雑記

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